「食べられています」だけではわからない

「食事はどうですか?」

病院でも診療所でも、よく聞かれる質問です。

患者さんが、

「食べられています」

と答えると、そのまま次の話題へ移ることも少なくありません。

もちろん、それ自体は不思議なことではありません。

主治医にとっては、まず治療中の病気について確認することが大切です。

食事についての質問も、体調を把握するための大切な確認事項のひとつでしょう。

でも、歯科としては少し気になることがあります。

それは、

「食べられています」

という言葉だけでは、実はよく分からないことがあるからです。

何を食べているのでしょうか。

どれくらい食べているのでしょうか。

食事に時間はかかっていないでしょうか。

そして、以前と比べて変わったことはないでしょうか。

私たちは、そんなことを考えながら話を聞いています。

診察をしていると、

「食べられています」

と言いながら、

実際には柔らかいものばかり食べていたり、

入れ歯を使わなくなっていたり、

食事に時間がかかるようになっていたりすることがあります。

もちろん、患者さんは嘘をついているわけではありません。

実際に食事はしています。

だから、

「食べられています」

という答えは、その人にとって本当のことです。

でも、歯科としては、

「以前と同じように食べられているだろうか」

ということが気になります。

人は、ゆっくり進む変化には慣れてしまいます。

例えば、急な病気なら、

痛い。

つらい。

しんどい。

そう感じるので、異常に気付きやすいものです。

でも、

少し噛みにくくなる。

少し食事量が減る。

少し硬いものを避けるようになる。

そんな変化には、意外と気付きません。

そのたびに人は工夫します。

肉が噛みにくければ柔らかいものを選ぶ。

入れ歯が痛ければ外す。

飲み込みにくければ、お茶で流し込む。

どれも自然なことです。

その人なりに、生活を続けるための工夫です。

だから、

「困っていません」

という答えになることもあります。

でも、歯科から見ると、

その工夫の積み重ね自体が、

食べ方の変化を示すサインかもしれません。

本人も気付かない。

家族も気付かない。

だからこそ、

私たちは、

「食べられていますか?」

だけではなく、

「何を食べていますか?」

「以前と比べて変わったことはありませんか?」

と尋ねます。

食べられなくなった日ではなく、

食べ方が変わり始めた日に目を向けたい。

そんな気持ちで、私は患者さんの話を聞いています。

このシリーズでは、

歯科から見た「食べる」について、

少しずつお話ししていこうと思います。

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