外来で抗がん剤治療を続けていた患者さんの話です。
口の中が痛い。
飲み込むと喉も痛い。
何を食べても美味しく感じない。
口腔粘膜炎だけでなく、
咽頭にも炎症が及んでいました。
味覚障害もありました。
栄養は摂らなければいけない。
それは本人もよく分かっていました。
周囲からは、
ゼリーやペースト状の食品も勧められていました。
でも、
「泥を食べているみたいでした。」
そう話してくださいました。
そして、
「本当に泥を食べたことはないけど。」
と、自分でオチまでつけておられました。
今思うと、
患者さんなりのユーモアだったのだと思います。
仕事もありました。
親御さんの介護もありました。
自分のことは後回しになっていました。
受診も途絶えていました。
その間に、
本人の話では、
2か月で12kg体重が減ったそうです。
そして、
体力的な限界を感じ、
自ら主治医に相談して入院となりました。
その後、
歯科へ紹介されました。
私はこの患者さんを通して、
食べることが難しくなる理由は、
ひとつではないのだと改めて感じました。
口の中の痛み。
飲み込むときの痛み。
味覚の変化。
仕事。
介護。
体力の低下。
どれかひとつではなく、
いろいろなことが重なっていました。
病院で患者さんと会う時間は、
その人の人生のほんの一部です。
診察室では見えない時間があります。
仕事をしている時間。
家族を支えている時間。
食べようと努力している時間。
患者さんは、
病院を出た後も生活しています。
私は訪問歯科に長く関わってきました。
それでも、
普段の診療で、
その人の生活をどこまで見られているだろうと考えることがあります。
今回の出会いも、
私にとってはそのひとつでした。
患者さんとの会話が大きく変わるわけではないかもしれません。
診察の流れも変わらないかもしれません。
でも、
これから患者さんの話を聞くとき、
以前より少しだけ、
診察室の外にある生活を想像するようになる気がしています。
私は、
そんなことを考えさせられた症例でした。

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